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コラム:推手とは

 

その1  本来、「推手」と言えば、太極拳の套路を学んだ人が、その理論にかなった動きを正確に行うための型練習のことを言います。二人一組になって「単推手」「双推手」「四正推手」などを繰り返し繰り返し練習します。

上手な人と推手をすると、 自分がいかに無駄な力を使っているかがよくわかります。 腕や肩に力が入っていたり、重心が高いと、動いているうちに不安定になり、自分で勝手にバランスを崩すことになります。二人の力が決して衝突しないよう、お互いがリラックスして動くことで安定した濁りのない動きを身につけていきます。

こんな推手をもっと自由に楽しもうというのが自由推手(これは正式な名称ではないかも)です。 掴まない、殴らない、といった最低限のルールを守ってとにかく適当にやりましょうというものです。これなら型を知らない人も、他の武術を練習している人も、全くそんなものに縁のない人も、ちょっとしたゲーム感覚で楽しむことができます。

目的は自分の動きの確認で、勝ち負けは二の次です。とは言うもののやはり倒れまいとして無意識に掴んだり引っ張ったりすることがあります。これをいかにコントロールするかが推手の技術といえます。そしてこの小さな勝ち負けが推手のもうひとつの面白さでもあります。

勝つことにこだわると乱暴な動きになり、力がぶつかって余り楽しめません。推手の相手は敵ではなく友であり協力者でありパートナーだと考えましょう。小さな力のやり取りを通して相手の動きを感じ取りつつ動く、微妙で繊細な感覚は自分の身体のあり方を見直すきっかけになるかもしれません。推手はいつも何か“あとをひく面白さ”を感じさせてくれる運動です。 (S.A)  

 

その2  日本の太極拳の愛好者は年齢層が高く、そのほとんどが女性です。これは、太極拳が「身体にやさしい健康体操」「誰でもできる気軽な運動」として広まり、定着した事によるものかも知れません。

そんな人たちに「推手」について聞いてみると、たいてい「よくわからない」「危険だからやりたくない」「興味がない」と否定的な返事がかえってきます。多分どこかで、人を投げ飛ばしたり、関節技をつかったりしている荒っぽい推手試合のようなものを見たり聞いたりしたからでしょうか。積極的にやってみたいという人はまれです。

しかし推手の練習はそんな派手なものでも、危険なものでも決してありません。反対に、もっと微妙でわかりにくいものです。相対する者だけが感じとれる、五感を駆使した見えない運動だといえます。普段、私達の生活のなかで誰かの体に触れる機会はそうありません。ましてや相手の体勢を探りながら動く経験など初めてでしょう。 そんな状況でいかにリラックスを持続できるか、いかに無理な緊張を取り除くことができるか、このあたりのことが少し理解できれば、套路練習だけでは分からない、太極拳の核心に近づくことが出来るのではないかと思います。

「動くこと」以前の、基本である「立つ」ことの大切さと気持ちよさを感じることで、自分の体に対する意識が変わり相手に対する意識も変わってくると思います。 「推手」も太極拳の套路練習と同じように、女性でも年輩の方でも楽しむ事が出来る運動であることは、一度経験すれば納得できると思います。

敵か味方かといった分別が進む昨今ですが、「推手」は太極拳のおおらかな精神をみなさんと共有できる唯一の方法であると思います。是非一度試して下さい。(S.A)

※​以上は推手のつどい最古参のSAさんによる寄稿です。SA氏の了解を得て旧ページより転載しました。

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